法改正2023②:共有制度の見直し

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空き家 ≒「遺産共有物」という考え方

所有者不明の空き家問題について、その大部分が「遺産共有物」であることが明らかになっています。これらの空き家は、遺産分割がまだ行われていないため、実質的に所有者不明の状態となってしまいます。もしそのような理由が原因で空き家が放置されると、倒壊の危険・虫や雑草の発生が近隣への迷惑にもなり、影響は深刻です。

共有制度の改正とその目的

旧民法では相続登記が任意だったので、今も多くの所有者不明の土地があるのはニュースでも話題になってましたよね。所有者が特定できない理由は、相続人の分布が枝分かれしすぎて追えないとか、いくつか理由はあるんですが、これまで任意だったことがそのまま弊害となって表面化しその結果、これらの土地の管理や処分に手間がかかるという事態になっているというわけです。

そして以前までは、共有財産の手続きを行うためには、共有者全員の同意が必要でした。そうなると共有者の一部が不明などで進行不能に陥るケースが多く見られました。しかし、今回の法改正により、共有者全員の同意なしに共有財産の処分や変更が可能となりました。共有物の管理の見直しについて大きく分けると5つのポイントになります。

1. 共有物の変更・管理のルールの見直し

旧民法では、共有物を変更するには共有者全員の同意が必要であり、管理については持分の価格の過半数が必要でした。これにより、ちょっとした変更をするだけでも全員の同意が必要で、なかなか進行しづらい状況でした。

管理と変更に関する新ルール

今回の改正民法では、共有物に小さな変更(軽微な変更)を加える場合でも、価格の過半数で決定できるようになりました。「形状の変更」は外観や構造を変えることで、「効用の変更」は機能や用途を変えることを指します。例えば、砂利道をアスファルトにしたり、建物の外壁や屋上防水を大きく修繕したりすることは、基本的には軽微な変更と見なされます。

改正法による賃借権の範囲

「短期の賃借権」の範囲が明示され、これについては価格の過半数で決定可能となりました。

賃借権の種類短期の範囲
山林の賃借権
樹木の植栽や伐採を目的)
10年
土地の賃借権(上記以外)5年
建物の賃借権3年
動産の賃借権6か月

賃借権については借地借家法の適用がある場合、全員の同意が必要ですが、一時使用目的や存続期間が3年以内の定期建物賃貸借の場合、更新なし、終了期間明示などの条件を満たせば、価格の過半数で決定可能です。

2. 賛否が明らかでない共有者がいる場合の管理ルールの合理化

旧法の問題点:共有物の管理が困難

現代の社会経済活動の広域化、国際化等の進行により、共有者が共有物から遠く離れて生活することや共有者間の人的関係が希薄化することが増えています。この結果、共有物の管理に関心を持たず、連絡を取っても明確な返答をしない共有者が増加し、共有物の管理が困難になっていました。

改正法:賛否不明の共有者に対する対応

民法改正により、賛否を明らかにしない共有者がいる場合でも、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定できるようになりました。ただし、共有物の大きな変更行為や、賛否を明らかにしない共有者が共有持分を失うような行為(抵当権の設定等)には、適用できません。また、賛否を明らかにしない共有者の持分が他の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が賛否を明らかにしない場合でも、このルールは適用できます。

共有物管理の難易度と改正法の効果

共有物の管理において、最も厄介なのは、「連絡をとっても賛否が不明な共有者」の存在です。このような状況では、一人の共有者が返答をしないだけで、他の全ての共有者が待つことになり、共有物の管理が難しい状況が生じます。しかし、新たな民法改正により、賛否不明の共有者がいても、裁判所の判断により、その人を除いた他の共有者が持分の過半数で管理事項を決定できるようになりました。これにより、共有物の管理がスムーズに行えるようになります。ただし、このルールは共有物の「管理」に限られ、大きな変更行為や、賛否不明の共有者が持分を失う行為には適用できませんのでご注意を。また、もし賛否不明の共有者と所在不明の共有者が同時に存在する場合でも、この新制度と「所在等不明共有者がいる場合の制度」を併用することで、共有物の管理を進めることが可能になります。これにより、より効率的で合理的な共有物の管理が可能になり、その活用も期待できます。

3. 所在が不明な共有者がいる場合の変更・管理のルールも合理化

旧法の問題点:所在不明共有者による管理自体の複雑化

調査を尽くしても所在や氏名等が不明な共有者が存在する場合、その人の同意を得ることができず、共有物に変更を加えることができません。また、所在不明共有者以外の持分が過半数に満たない場合には、管理に関する決定もできません。

改正法:所在不明の共有者への対応

今回の改正法では、所在不明の共有者が存在する場合でも、裁判所の決定を得れば、所在不明の共有者以外の全員の同意により、共有物の変更が可能になります。また、所在不明の共有者以外の持分の過半数により、管理に関する事項も決定できます。

但し、所在不明の共有者が共有持分を失うことになる行為(例えば抵当権の設定等)には、このルールは適用できません。さらに、所在不明の共有者の持分が他の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が所在不明の場合でも、このルールは適用可能とされています。

空き家問題と改正法の影響

改正前には、所有者が亡くなり子供たちに共有された空き家などの改築や売却に困難が伴っていました。なぜなら、共有物に対する変更には全共有者の同意が必要だったからです。たとえば、三人の子供が共有者となった空き家で、一人が行方不明になってしまった場合、全員の同意が得られず、空き家を放置するしかない状況が生じていました。しかし、改正法では、行方不明の共有者が存在しても、裁判所の決定により、残りの共有者だけでその不動産の持分の取得や譲渡が可能となりました。これにより、空き家問題の解決につながることが期待できます。

4. 共有物の管理者制度が新設

これまで、共有物の管理者についての明確な規定が存在しなかったため、誰を管理者に選ぶべきか、管理者がどのような権限を持つべきかなどの具体的なルールがありませんでした。

改正法で変わったこと

これらの問題点を解決するために共有物の管理者制度が新設されました。管理者の選任や解任は、共有者の意見により、管理規定に従って選出されます。また、共有者以外の人も管理者に任命することが可能とされています。

任命された管理者は、全ての共有者の同意を得なくても管理に関する軽微な変更を行うことができます。しかし、大きな変更を行う場合は全共有者の同意が必要です。

さらに、管理者は所在不明の共有者がいる場合にも対応可能です。裁判所の決定を受けて、所在不明の共有者を除く共有者の同意により、変更を加えることが可能になりました。

また、管理者は共有者が管理に関する事項を決定した場合、その決定に従う必要があります。もし決定に反した行為を行った場合、その行為は共有者に対して無効ですが、それを知らなかった第三者に対しては無効を主張できません。

共有物分割の手続きの整備

旧民法では、裁判による共有物分割の手続きが十分に整備されていませんでした。しかし、新民法では分割手続きが明確に整備され、「現物分割」、「競売分割(換価分割)」、「代償分割(賠償分割)」の3つの方法が明記されました。これにより、分割の選択肢が広がり、共有者間で適切な方法を選べるようになりました。

特に、代償分割(賠償分割)は、共有物を1人(または一部の人)が取得し、その価格を他の共有者に支払うことで共有関係を解消する手段として重要です。

また、裁判所は、分割の裁判において、金銭の支払い、物の引渡し、登記義務の履行などの給付を命じることができるようになりました。これにより、裁判所がより具体的に分割の実行を指導できるようになり、共有関係の解消が円滑に進むことが期待されます。

5. 共有物を使う共有者の新たな義務

旧法の問題点:共有物の使用についての不明確さ

旧民法では、共有物を使用している共有者がいる場合、その共有者の同意なしに持分の価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定することが可能かどうかが曖昧でした。さらに、無断で共有物を使用している共有者がいると、他の共有者がその共有物を使用することが困難になる問題がありました。

改正法:共有物の使用に関する新ルール

新たな改正法では、上記の問題が改善されました。共有物を使用している共有者がいても、持分の価格の過半数で管理事項を決定できることが明記され、他の共有者も同意があれば共有物を使うことが可能となりました。ただし、管理事項の決定が共有物を使用する共有者に特別な影響を与える場合は、その共有者の同意が必要であることも規定されています。

使用の対価と管理者の注意義務

また、新たに設けられた規定では、共有物を使っている共有者が、他の共有者に対して自己の持分を超える使用の対価を支払う義務があることが明記されました。ただし、共有者間で無償とするなどの合意がある場合は、対価を支払う必要はありません。さらに、共有者は善良な管理者の注意を持って共有物を使用する義務があります。共有物を使用する共有者が自己の責任で共有物を失ったり壊したりした場合、他の共有者に対する損害賠償義務が生じることになりました。

まとめ

実務上でも”連絡待ち”の案件が次のステップに進まないのはやはり問題点として、共有物管理の全員一致が難しい点や、共有関係の解消がすんなり進まない点、そして行方不明者がいる場合に手続きが難航するといったことが挙げられていましたが、新しくなった制度では、これらの問題はかなり改善されると思われます。特に、変更行為と管理行為について「持分過半数」での実施が可能となるということは、一部の共有者の意思が不明な場合や所在が不明な場合でも、共有物の管理や変更が可能になりますし。今回の法改正が空き家問題における遺産共有物という難点を解決し、それぞれの共有者がより円滑に然るべき運用ができるようになるといいですね。

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